前回の続きです。
今回のセミナーの1日目の最初の時間で、参加者の方ひとりひとりの愛犬との出会いから現在にいたるお話をじっくり聞くことができました。何人もの方が愛犬をペットショップで買い、その後なんらかの問題がおき、解決方法を探るうちに地元のD.I.N.G.O.のトレーナーさんに出会い、今回ここへ来るに至った話をしてくださいました。ここに至った飼主さんに出会えたワンコたちは本当に幸せだなと思い、何度も泣きそうになりました。
問題が起き… の後、ここではなく管理センターに連れてゆかれる子も多くいます。
問題が起きた原因はいろいろあると思いますが、人間社会で生きることになった犬がその生活を受け入れるキャパシティは、ほとんどの場合飼い主さんに出会う前の社会化期に決まってしまっているところに重大なポイントがあると私は思います。
本来は、問題が起きる前、犬を飼う前に「正しく」犬を知ることができればいいのですが、今のペットビジネスの大半はそれを望んでいないのではないかと思わざるを得ません。大切な社会化期をおろそかにするような商売が成り立つべきではないです。そのためには、(リーダー論などに惑わされず)犬という動物について本当の知識を得ることがもっともっと一般に広まればいいと心から願います。
以前「犬通」の第一部「犬の起源・歴史・本能・進化」で犬の社会化期について学んだ後、ロックの社会化期がどうだったのかを調べました。
こちらにまとめてあります。
2年近く前に書いた記事ですが、読み返してみて、やはり今でも同じ考えであると確認し、あらためてD.I.N.G.O.に出会えて良かったな、と思いました。
ロックは上のリンク先にまとめたように、家庭犬になるために適切な社会化期を過ごせたラッキーな子です。私が自分本位でロックの気持ちを考えない飼い方をして問題を作ってしまってもなお、とても「良い子」だと思います。
ロックの性格の良さには、大袈裟ではなく本当に毎日感動しています。それに気づけるようになれた自分のことも嬉しく思います。下手な飼い方をしていても、愛情だけは溢れんばかりにあったこともロックの性格を歪めなかった要因だとは思いますが(その頃の愛情は「依存」に近いもので、自分がそれに気づいた時にやっとロックの本当の素晴らしさが分かるようになったのですが。そのへんの詳細はこちらに書きました)、なんと言っても社会化期に培われたベースがあったおかげだと思います。生物学的に「適切な時期」というチャンスは逃せないものだと思うので。言葉が通じない分、それを逃すと飼主が一生懸命勉強しない限り修正は難しい場合が多いと思います。このブリーダーさんの元で社会化期を過ごしたワンコたちは、その後捨てられにくいのではないかと私は思っています。それは目立たないけれど、一頭一頭の犬にとっては最高のプレゼントなのではないかと。
私の順番に、私がなぜ今日ここに来ているのかお話ししました。
私はD.I.N.G.O.のおふたりのトークが大好きだから聞きたいのと、聞けるチャンスにはとにかく聞いておかないと大事なことを忘れるからです、と。私は自分のことを、人一倍相手(人間も含め)の気持ちに無頓着で、自分のことだけを考えて行動してしまう人間だと思っています。だから、人一倍こういうチャンスを逃さないようにして何度も思い出さないとすぐまた逸れてゆきそうでマズいと思っているからです、と。
私はそうやって自分本位に行動し、ロックのことを可愛がっているつもりでストレスを与え続けた結果「他の犬を見ると興奮する」という問題をロックに作ってしまいました。それについては3年近く取り組んできた結果、改善はしていますが、今後もずっと私の管理で対処してゆく必要があるだろうと考えております。
いつか、別の犬を飼うならば、こういう失敗をしないようにしたいな、と思います。できればロックと同じように適切な社会化期を送った子と、その後も適切な飼い方をして理想的な信頼関係を築きたい。ロックに与えてやれなかった(というかロックから奪ってしまった)大切な部分をきちんと与えて、より幸せな犬に育て、一緒に幸せに暮らしてみたい。
里親を探している、人間のせいで不幸になった子たちがたくさんいると知ってもなお、そう思います。
それはひとえに、私が犬を飼う理由が「自分のため」だからです。これは間違いなく。他に理由はありません。
しかし一方、同じ理由で、犬生に恵まれなかった保護犬の里親になって、その子の一生をずっとましなものに変えてあげるということに、強い憧れがあることもまた事実です。
その両方ともが本音です。
そのことを、正直な気持ちとして、いつか言いたいなと思っておりました。
今年IGで知り合った方で、黒プーちゃんをパピーから飼ってらっしゃる方が、2頭目として繁殖に使われて放棄されたトイプーを引き取られました。たまたま職を失って自宅にいることになったのをチャンスと考えての行動だったそうです。繁殖に使われて放棄された子なので、家庭犬としてそれほど難しい問題を抱えていた訳ではないようでしたが、最初の子のQOLを考えてこられたからこその育て方をされている様子を拝見して、とても羨ましく思いました。そして、その子が初めての人間社会で出会う景色、音、匂い、そのひとつひとつを受け入れてゆく姿に何度も泣いてしまいました。困難なこともあると思うけれど、こんな姿を見守れる喜びって他にはないくらい素晴らしいものだろうな、と。
私が今ロック以外のワンコのために出来ることは限られています。限られた範囲でしたいと思うことをさせていただいているに過ぎません。が、もしもいつかもっと出来ることが増えた時、それを可能にする能力のある人間になっていられたらいいなと思っています。D.I.N.G.O.のトレーナーさん方のように。
今の私の役割は、ロックのQOLをより豊かなものにして、人間社会で幸せに暮らせる犬でいさせること。その努力を続けることです。
今回のセミナーで、ロックのQOLについて、気づいたことがあります。
2日目にしたことについて「各ワンさんが鉄板でできるトリックを飼主さんと披露した後、別の参加者ができるだけ忠実に飼主さんのしたことを再現して同じトリックをしてみたり…」と前回書きましたが、ロックが鉄板で出来るトリックとして披露したのは、「バーン!」と撃つ真似をしたら倒れて、OKと言うまで倒れている、というものでした。
このトリックはロックがまだ1~2歳の頃に教えたと思うのですが、どうやって教えたかは残念ながらほとんど覚えておりません(主に説得だったような… そんな訳ないか…)。私自身トレーニングや犬の勉強を始めるよりずっと前でしたので。ただ、何故教えたかだけはよく覚えております。私はそれまでは犬に芸を教える必要などないと思っていたので、安全管理のための「伏せ」と「お座り」しか教えておりませんでした。「お手」なんてなんの意味があるの、と。が、ロックと過ごすうちに「退屈してるんじゃないか」と思うようになったのです。
犬って、芸を覚えることが喜びになるんじゃないだろうか、覚えて人間とコミュニケーションをとることが楽しいんじゃないだろうか、と。
そう思って「バーン!」を教えたことと、教えてみて「やはりそうらしい」と感じたことはよく覚えております。この時私はロックのQOLを意識したんだな、と今回気づきました。犬通を学んだ今はもちろん確信しております。犬って、野生動物はしないことをして喜びを感じることのできる特殊な動物なのだと。人間のコンパニオンアニマルになる素質に溢れ、そのことで自分も幸せを感じられる特別な動物の代表格なのだと。
苦手に感じていたクリッカーを使って、これからはいろんなことを教えてゆきたいな、と。その先に今より更に幸せな関係があるように思えた素晴らしいセミナーでした。
すべては私次第。
ばんがれ私。
そして、すべての犬という素晴らしい生き物に生まれてきた子たちが幸せになることに苦労しない世の中になってゆきますように…
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。
毎年年の瀬にはやさぐれずにいられないわたくしですが、今年はおだやかに年を越してみようじゃないですか。
できると思うよ。
みなさま、寒いお正月になりそうですが、風邪などひかれないよう温かくしてお迎えくださいね。どうぞよいお年を!!